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やんばるの世界自然遺産登録と残る課題

 

1 やんばるの世界自然遺産登録
2021年7月、やんばる地域(沖縄県北部)の一部が世界自然遺産に登録されました。
鹿児島県南部から沖縄にかけてつながる琉球諸島は、かつて大陸の一部だったため、そのころ渡ってきた生物が、その後大陸と切り離される過程でそれぞれの島に閉じ込められ、独自の進化を遂げ、それぞれの島にしか生息しない生物(固有種)が多く暮らしています。温暖な黒潮の影響や季節風(モンスーン)の影響から亜熱帯海洋性気候のさまざまな生態系が見られるのも特徴です。
今年世界自然遺産登録が決まった地域は、奄美大島、徳之島、沖縄島北部(やんばる)と西表島の一部です。琉球諸島は小さな島の集まりで、それぞれの島の生態系は人的な影響により多くが失われてしまい、現在でも固有種が比較的多く残る4か所が選定されました。

 

2 残る課題~生態系を脅かす要因~
やんばるでは限られた地域しか世界自然遺産登録の対象になっていないため、登録後も課題が多くあります。
生態系を脅かす要因の一つは米軍基地(北部訓練場)の存在で、2016年にはその約半分が返還されましたが、残りの半分が訓練に利用されています。返還された地域も、長年の米軍の演習によるさまざまな汚染が残っています。

もう一つは、大型公共事業の影響で、現在でも森林伐採や造林などの林業名目の開発が行われています。
2017年、沖縄県民の有志が、補助金の一部を負担した沖縄県を相手として、「第3次命の森やんばる訴訟」(違法公金支出金返還等請求事件)を提起しました。これは、2016年に沖縄振興の名目で国が負担する一括交付金という制度を使って、生物多様性豊かなやんばる本来の森林が大規模に伐採され、日本一大きなどんぐりの実をつけるオキナワウラジロガシの大木や、ノグチゲラの営巣が可能なイタジイの大木も伐採されたことについて、その違法性を問う裁判でした。

この裁判では、少なくとも50年から60年はほとんど人の手が入っていない森林が「耕作放棄地」であるとして伐採されました。沖縄県からは「機能回復整備事業」という名目で補助金が支出されており、補助金の要件に該当しない上に、沖縄県が事前に十分な現地調査もせずに伐採を進めていたことも裁判の中で明らかになっていました。

しかし、昨年10月の那覇地方裁判所の判決は、伐採現場の検証(現地視察)や証人尋問を却下して、補助金の要件該当性について補助金交付の根拠法令をきちんと検討しないまま適法な支出であったと判断したので、現在控訴審が続いています。

伐採現場は、世界自然遺産登録にも、またやんばる国立公園にも入っていない場所でしたが、伐採現場から数十メートルの場所でもヤンバルクイナやリュウキュウイノシシのほか多くの動植物が確認されています(私たちの自然保護団体「やんばるDONぐりーず」のホームページFacebookでも映像が見られますので、ぜひご覧ください。)。

この裁判を通して、世界自然遺産登録の地域から離れた集落から比較的近い場所でもやんばる本来の森林が残っていることや、そのような場所では今後も自然破壊が進む可能性があることがより一層明らかになりました。
森林伐採以外にも、やんばるはダムにより河川が分断された場所が多く、世界自然遺産登録の決議の中でも、森林伐採のほか、河川再生が必要なことも指摘されています。

 

3 さいごに
私たちの活動もコロナ禍の中で困難な点も多いのですが、やんばるの自然を保護して、次の世代に引き継いでいくことができるよう、取組みを続けたいと思っていますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

弁護士 喜多 自然

(写真は自動撮影カメラで撮影されたヤンバルクイナ)


2022年02月16日(水)

 

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