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青年法律家協会が発行している「青年法律家(2017年4月25日)」に、弁護士下地聡子の報告が掲載されましたので、下記のとおりご紹介します。
記
沖縄からの報告—反・基地反対運動への抵抗
沖縄 下地聡子
1 はじめに
2017年3月3日及び4日に開かれた第4回常任委員会において,沖縄からの現地報告を行いました。本稿は,同報告内容に加筆修正したものです。弁護士登録直後の沖縄出身者という立場で,僭越ながら,私自身の話も交えて寄稿させていただきます。
2 沖縄における反・基地反対運動の空気
(1)基地を抱える自治体住民の感情
私は沖縄県名護市で生まれ,名護市の東南部に隣接する宜野座村という村で育ちました。辺野古最寄りのインターチェンジ(沖縄自動車道宜野座IC)があるので,那覇から辺野古に直接向かう際に通ることの多い村です。
宜野座村には,緑豊かな山々と,観光客のいない穏やかな海,そして広大な米軍基地キャンプ・ハンセンがあります。基地と豊かな自然に囲まれた自治体という意味で辺野古と同じであり,基地の存在を当然のものとして受けとめていました。同時に,基地に反対することも当たり前でした。
もっとも,「基地に反対すること」という言葉には注釈が必要です。沖縄の民意は基地反対,と十把一絡げにとらえられやすいですが,基地を抱える自治体の住民は,それぞれが,それぞれの立場に固有の複雑な感情を抱えています。親族に米軍関係者がいる人,基地から経済的恩恵を受けている人,交付金を財源に豊かな公的サービスを享受しているという自覚のある人がいるからです。それでも,(彼らの感情を捨象するおそれもありますが,)住民の対基地感情を言語化すると,「既存の基地は受け入れざるを得ないものの,枚挙にいとまがない被害の歴史から,あるよりはないほうがずっといい,そして,新しい基地を作ることに対しては反対」という立場ではないかと思います。
(2)反・基地反対運動の具体的なあらわれ
ところが昨今,沖縄県民が基地に対して複雑な想いを抱くこと及び新しい基地に反対することを許容しない空気が徐々に醸成されつつあると感じます。
そのあらわれの最たるものが山城博治さんの長期勾留,「ニュース女子」の高江ヘリパッド建設反対運動についての報道,国の翁長知事に対する賠償請求検討でしょう。これらは,官民双方からの反・基地反対運動の圧力が顕在化したできことです。
象徴的な出来事として,山城さんの長期勾留を契機とする那覇地裁の変化を挙げます。
2017年3月18日に山城さんが釈放されるまで,那覇地裁の前で,連日,山城さんの解放を求める市民が集まっていました。以前は,裁判所前で市民が集まるのは,基地関係の訴訟の期日等,限られたときだけでした。また,裁判所の門のすぐそばに,山城さんが勾留されていた拘置所の門があります。そこに,警備員が立つようになりました。さらに,弁護士がよく通っていた裁判所と那覇拘置所を繋ぐ小門が,「警備強化の都合」という理由で施錠され,通れなくなりました。私は那覇修習のときから,毎日裁判所の前を通ったり,利用したりしていましたが,このようなことは初めてです。
現在の那覇地裁では,刑事司法が沖縄の基地反対運動への弾圧の手段とされていることが,地元民の目に触れる範囲内で可視化されているのです。
(3)地元軽視の姿勢へ
反基地運動を押さえ込もうとする流れは,いわゆる「反対派市民」ではない県民を動かすほどの地元軽視の姿勢として現れてきています。話は宜野座村に戻ります。現在,宜野座村の国道を,まるで占領地のように,昼夜問わず軍用車両が走っています。かつては4輪駆動SUVと思わしき比較的小型の車両だけでしたが,今は,軽い戦車規模の大型車が走行しています。宜野座村出身の母曰く,「こんなことは生まれて初めて,安倍さんが首相になってから」だそうです。母は大学生のころからノンポリを貫き通していたのですが,地元の異様な変化に不気味さを感じて,最近辺野古の座り込みに参加するようになりました。
(4)以上のように,今の沖縄は,沖縄の民意を無視するどころか,反対運動をねじ伏せてやろうという意図を,実生活でも感じます。
3 沖縄は負けない
しかし,どんなに沖縄ヘイトが官民に浸透しようとも,反対運動をねじふせるという圧力の前に,沖縄の人々はへこたれないとも感じます。沖縄は,大和からの暴力ないし差別に慣れている一面があるからです。当然怒りはありますが,琉球征伐,琉球処分,沖縄戦—それらと遠からぬ出来事が現代に起こってもさもありなんと,俯瞰しているところもあります。
母は,10年以上も前,怒りを込めるでもなく,平気な顔でこう言いました。「本気で辺野古で基地を作るなら,必ず,死人が出る」。そのような実感を持っているからこそ,犠牲を出さず基地も作らせないために闘い続けようという強い意志が絶えないのです。
反・基地反対運動の活発化の原因のひとつは,沖縄の,けっして屈しない抵抗の姿勢が,沖縄県外の社会運動に拡がることをおそれている点にあるのでしょう。
沖縄では現在,基地関係訴訟では,第2次普天間爆音訴訟控訴審,第3次嘉手納爆音訴訟控訴審が係属しており,辺野古新基地建設関連訴訟は今のところ(2017年3月30日現在)ありません。もっとも,翁長知事が辺野古基地埋立承認の撤回を明言したことから,在沖米軍基地をめぐる新たな訴訟は,これからも続きます。圧倒的で動かしがたい米軍基地という現実の前で激しく抵抗する人々と,抵抗せずとも心の中で怒りの火を絶やさなかった人々の静かな熱意を,法的構成を創意工夫することで裁判所に届け,成果を挙げなければならないという思いを強くしています。
以上
2017年05月09日(火)
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